カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「昔の教師は偉かった――ワケじゃない」~呆れた教師(私)の三題

【第一話】

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 昨日、「昭和天皇在位60周年記念金貨」(正確には「天皇陛下御在位六十年記念硬貨」)のことを書いて思い出したことがあります。それはもう20年以上前のことです。

 当時勤めていた中学校である日4時間目あたりの授業をしていた時、珍しく教頭先生が入ってきて授業を止め、私を廊下に呼び出したのです。訊くと○○駅から電話が入り、私のクラスの生徒が鉄道公安に補導されたので、引き取りに来てくれとのこと。テスト前の忙しい時期だったので面倒だったのですが、他に行く人もいないのでしかたなくクラスの生徒を自習にし、車で駆けつけました。当時はそのような場合に親を呼びつけると、現場が愁嘆場になったりして大変なので、学校が引き取り行くのが常だったのです。

 ところでなぜ捕まったのかというと、その子が中学1年生なのに小学校の4年生程度にしか見えない小柄で、それが1万円札を出して車内切符を買おうとしたので怪しまれたのです。ではその1万円札はどうしたのかというと(ここで例の金貨が出てくるのですが)、親から盗み出した「昭和天皇在位60周年記念金貨」を銀行で両替して持ち歩いていたのです。

 小学生にしか見えない子が1万円札を差し出すのを、怪しむ鉄道関係者が一方で、同じ子が10万円金貨を両替するのを、怪しみもせずに行ってしまう銀行員がいる。私は一言文句を言いに行こうかと思いましたが、今更金貨が戻ってくるはずもなく、保護者も特に何も言わなかったのでそのままにしておきました。

 しかし彼のこの小さな犯罪は、なぜ半日もばれずに済んだのでしょう?

 それは担任(つまり私)が、その子の登校しないことを怪しんで電話連絡をしなかったからなのです。そのお宅は、病欠や遅刻の際にいちいち連絡をくださるような家ではありませんでした。その都度、私の方から確認を取っていたのですがそのうち面倒になり、いまに連絡が来るだろうと放っておくことが多くなっていたのです。
 現在では考えられないことです。

【第二話】

 もっと酷かったのはそれから何年か後のことです。2学期始業式の日の夕方、結局登校しなかった生徒の家に電話をかけると受話器の向こうで母親が、
「えー! 夏休み、今日までじゃなかったのですかー!」

 本当にいい加減なものです。私も、生徒も、母親も。

【第三話】

 ある朝、女生徒の一人が私の顔を見るなり大変な興奮状態で

「せんせ、せんせ、せんせ! 昨日アタシ、◯◯医院の前を歩いていたら変なおじさんにヘンなもの見せられちゃってサァ、それでウチに帰ってお父さんに言ったら、お父さんなんて言ったと思う? 『それでそいつの、大きかったか?』だって! そんなモン、私見比べたことないから、分かるはずないじゃん、ネッ?」

 注目すべきはその父親にも私にも危機感というものがまるでなく、警察に届けようという発想もまるでなかったことです。その女の子にしても、問題の核心は“見せられた”ことにではなく、父親のトボケた発言の方にありました。
 なんとものんびりしたというか、いい加減な時代です。つい20年ほど前のことです。

 私は優秀な教師ではありませんでしたが、跳び抜けていい加減な教師でもありませんでした。もちろん「すごい教師」もたくさんいましたが、あとはみんな似たり寄ったりです。それでもさしたる文句も言われず、勤まったのです。

 昔の教師はすごかった、教育力があった。今の教師は教育力が落ちた、いい加減になった・・・いずれもとんでもないウソです。