カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「いじめの指導をどうするか」~本質的な解決でなくてもいい時がある

 一昨日は県南大会女子ソフトテニスの部の競技役員として、一日忙しく働いていました。土曜日の試合で本校の全チームが負けてしまったので応援する選手もなく、せっかくの日曜日を潰して一日中働かされるのはたまりません。と、そんなふうに不貞腐れていたところに、S中学のユニフォームを着た女子がさっと近づいてきて「T先生、覚えていますか? H小でお世話になったIです」と声をかけます。
 忘れてなんかいません。その学年では一番手をかけた子でしたから。

 Iは気の強い仕切り屋の女の子で、6年生のクラスでは1年半以上に渡り、女子の12人ほどを従えて好きにクラスを操作していた子です。その前のクラスでも、そのまた前のクラスでも、怖い女子として一目も二目も置かれていました。

 ところが6年生2学期、秋も深まったころ、12人の手下たちが一気に反逆を企ててIを浮かせ、反抗に出たのです。中には小学校1年のときからの手下という子もいて、6年間の恨みを一気に晴らそうとするのですから復讐も熾烈です(とは言っても現代のことですから特に手を出すわけでもなく、呼び出しては過去の不行跡をいつまでも問い詰める、といったふうでした)。
 大きな学校でしたので長い間そうした様子は見えなかったのですが、ついに校内を追い回すようになって私たちの目にも明らかになりました。

 もちろん担任は早くから気づいて手を入れていたのですが、なかなかうまく行かない。12人を一括して指導すればみんな燃え上がっている、個別に話せば(なんといても12人ですから)時間がかかって仕方ない。せっかく一人を納得させても5人目と話をするころには元に戻っているといった具合です。

 そこで私たちが取った行動は、担任を除く学年職員の二人、教頭、生徒指導係、特別支援コーディネーター、養護教諭の6人で一気に面接をすることでした。これだと児童ひとりにつき20分間話を聞いても1時間の授業時間で済みます。担任はもう何回も話していますから、改めて話しても仕方ないだろうというのが私たちの見立てでした。

 子どもたちと話す内容も統一しておきました。
 まず子どもたちの言い分を十分に聞いてから、

  1. このままだと遠からずIは学校に来れなくなる。
  2. そのとき学校の何人かはお前たちがIを追い回していたことを思い出して、そこに原因があるはずだと思うに違いない。
  3. やがて噂は広まるが、お前たちはその一軒一軒を回って説明することはできない。説明して納得してもらえるかどうかは分からない。
  4. もちろん今日までのことを考えるとお前たちの気持ちは十分わかるし、Iに反省してもらわなければならないことは多い。
  5. Iの指導は私たちが必ずやる。だから今はこらえて静かにしていなさい」

 そのあと、私たちは実際にIへの指導を深めました。そして十日ほど置いてから手打ち式をしたわけですが、それで仲良くなったわけでもありません。もちろん元の鞘に収まってもいけない話です。ただ、熱に浮かされたようにIを問い詰めた集団は、十分に冷やされて次へのステップを踏み始めました。そしてめでたく卒業していったわけです。

 この件から私が得た教訓は次のようなものです。
「いじめ問題(と不登校)はじっくり腰を据えて時間をかけて取り組む課題ではない。それはできるだけ早い段階で大量の人員とエネルギーをつぎ込み、一気に解決しなければならない問題で、それに失敗すると必ず長引く」

 テニスコートでのIは実に生き生きとプレーし、ついに県大会への切符をつかみました。
 あのときあんなふうに指導してほんとうに良かったと心から思いました。ただし・・・全部の日程が終わったあと、S中の生徒が本部前にあいさつに来たのですが、部長のIの態度はまったく昔のまま、横柄で高慢な態度で部員を仕切っていました。やれやれ。

 しかしそれでも、Iは不登校になることなく、中学校に通い続けたわけですから、よしとしましょう。