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「なんとも不思議な経済の話」~日本は金持ちだがさっぱり豊かではない

 昨日のニュースに「2010年末の日本の対外純資産残高が前年末比5・5%減の251兆4950億円で、2年ぶりに縮小した」というのがありました。これだけ読むと何となく「日本の長期低落傾向」みたいな感じに見えますが、まったく違います。

 対外純資産というのは、日本政府や企業・個人が海外に持つ資産から外国の政府や企業・個人が日本に持つ資産を差し引いた金額(簡単に言うと日本が外国に貸してる金から、日本が外国から借りている金を差し引いたもの)のことです。

 これがマイナスだと債務国(借金国)、プラスだと債権国(金貸し国)ということになるのですが、日本は2009年までの19年間ずっと世界第一位の債権国だったのです。特に09年度は金額的にも過去最高となり、10年度はそれと比べると5・5%減ですがそれでも09年度に次ぐ第二位の記録で、これでおそらく20年連続の「世界第一位の債権国」を維持しただろう、というのがこの記事の内容なのです。

 ところで1981年度から2010年度まで、実に29年間ものあいだ日本の貿易は黒字のままです。貿易収支の多くはドルで行われますから、ドルがどんどん貯まります。そのドルを使って債券やら株やらを買いまくると20年連続の「世界第一位の債権国」、それが道筋です。

 しかし何かピンと来ませんよね。
 その「ピンと来ない」理由は、なんと言っても「そんなに儲かって金を貸しまくっているのに、私たちはさっぱり豊かな感じがしないじゃないか」という実感があるからです。

 政府は借金まみれ、景気はさっぱり浮上してこない、失業率はどんどん上がり非正規雇用も増えっぱなし、おまけに地震津波原発事故のトリプルパンチで日本はもうダメじゃないかと不安になっているときに、もう四半世紀以上も儲かりっぱなしです、20年も世界一位の金貸し国を続けていますと言われてもピンと来ないのは当たり前です。

 そのからくりは為替相場にあります。簡単にいうと29年間も儲け続けたドルを、円に替えて日本国内で使えばみんなが豊かな気分になれるのにそれができない、ほとんどできない。そんな巨額のドルを円に換えてしまうとどんどん円高が進んでしまい、貿易がやりにくくなると同時に対外純資産もガンガン目減りして行ってしまうからです。

 実際「2010年末の日本の対外純資産残高」(一番初めに掲げた話です)はドル換算だと初めて3兆ドルを越えて過去最高(3兆850億ドル)を記録したというのに、その間に円が10円も高くなってしまったために円換算では「前年末比5・5%減の251兆4950億円で、2年ぶりに縮小した」ということになってしまうのです。

 今のところ日本にとって「ドル」というのはかなり厄介な通貨で、いくら儲けても日本を豊かにしないし、さっぱり使えない金です(債券も株も持っているだけで何の生活の足しにもなりません)。
 何かうまくできているのかできていないのか、よく分からない話ですよね、経済って。