カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「そう言えば新婚の頃」~英語なんてできなくてもなんとかなる

 さっぱりそれらしくない新婚の佐藤先生(失礼!)を見ながら、昔の自分の新婚時代を思い出しました。

 私は卒論のテーマが昭和史だったこともあって「昭和」にこだわりがあり、なんとか年号が変わらないうちにと思って昭和63年に焦って結婚しました。ですから夫婦の歴史は平成の年数と同じです(今年が23年目)。

 結婚に至る紆余曲折は一部でお話しましたし、また改めて話すこともあろうかと思いますが、とにかく何とかそこまでたどり着いて、結婚式は双方の両親を連れ、6人でハワイに行って挙げました。当時としてはけっこう斬新でした。奇をてらったわけではなく、新婚旅行の費用を含めるととてつもなく安くついたからです。
 リムジンの送り迎えに式そのもの、牧師さん1・オルガニスト1・歌手1、結婚証明書と写真までついて総額2万8千円。貸衣装も二人で1万5千円ほどでした。
 それともうひとつ。ハワイはいざとなれば日本語で何とかなりそうだというのも重要なポイントでした。なにしろ初めての海外旅行なのでみっともないところを曝したくなかったのです。さらにその上、私は密かに「旅行英会話」みたいな本を買って、涙ぐましい自己研修も積みました。ところが・・・

 ホノルルの入国審査では、殆ど最後の通過者でした。長い長い待ち時間をかなり緊張して過ごし、ついに自分たちの番になって私はパスポー卜を差し出します。ここで係官が「Are you on business or sightseen?(ビジネスですか、観光ですか?)」と聞き、私が落ち着いて「sightseen」と答えれば終わりです。そところがそのときの女性の係官は、意外な質問をしたのです。
「Are you on business or kankou?」
 その「カンコー」という単語が分からない。教えてもらったことがない。たぶん今まで一度も聞いたことがない。私はかなりうろたえてそれが「観光」と気づくまでしばらく、絶句して立ちすくんでいました。

 それでも何とかその場を凌いで通過したのですが、考えてみると後ろにいる5人も英語なんてとてもおぼつかない。そこで私が「自分たちは一緒の家族なのだから、審査は一緒にやってくれ」と言わなければならないのですが、とっさにそれが出てこない。後から考えればいろいろな言い方はあったはずなのに出てきた言葉は
「We are all in one family!」
 しかも慌てながら発音しているので「ホール・イン・ワン ファミリー」みたいになってしまい、「オレたちゃ天才ゴルファー一家か?」と(今で言う)セルフ・ツッコミ状態。一族を引き連れてのハワイ新婚旅行はこうして最初から躓きます。

 別の日。
 あんなに心配した両家の親たちが、異常な生活力でホノルルをタクシーで駆け回っているというのに、私たちはすっかり疲れてしまい、こってりとしたホテルの料理にも飽きてマクドナルドで昼食をすることにしました。
 ビックマック2個とコーヒーふたつ。私はカウンターの店員に向かって言います。
「Please give me two bigMac hamburgers and two cups of coffee」
「hamburgers」の最後の「s」と「two cups of」が我ながら泣かせます。そうです。中学校の英語ではこうでなくてはいけないと教えられました。
 私たちが首尾よく食物を手にして店の偶で食べ始めた時です。いかにも頭の悪そうな若い女性(というのは私のひがみですが)が入ってきて、妙に甘えた声で注文を始めます。
 写真入りのメニューを指差しながら日本語で、
「あっのォ、ハンバーガーひとつとォ、コーヒーとォ、フライドポテト……、ハウ・マッチ?」
 それで通じた・・・。私はハンバーガーを喉に詰まらせそうになりました。
 そうだ、コミニュケーンョンなんてそんなものだ。何が「hamburgers」だ、何が「two cups of」だ!
 私は自分のアホさ加減にウンザリしながら、もう二度と英語はしゃべらないぞと固く決心したのです。

 妻はその間、ケタケタと笑っていただけでした。