カイト・カフェ

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「企業面接は最初の5秒で決まる」~こいつと30年間、気持ちよく仕事をしていけるか

 超氷河期といわれた就職戦線がしばらく良かったと思ったらリーマンショック以来また最低の状況になっているようです。ほんとうに深刻だと思うのはひとりで60社も回って内定が出ないと、学生は根本的なところで生きる自信を失ってしまうことです。希望のレベルをどんどん下げてもそうなっているわけですから、絶望的になるのも分からないわけではありません。むしろ、そんなことを60回も続けた精神力の方が驚きです。

 また就職試験の苦しみは何度やっても受け入れてもらえないということと同時に、選考の基準がこれまで自分が経てきた経験とまったく異なることだとも言います。これまで自分が経てきた高校入試や大学入試では、より努力したものがそれに応じた成果や地位を保証されるものです。ところが就職試験はどうやら別のルールで動いているらしく、しかもその法則が理解できないというのです。

 これについて、ある大学の先生が出版社の採用担当者を中心に訊ねて回ったことがあります。採用の決め手は何なのか、どうやって決めるのかといったことです。答えは簡単で、異口同音に「最初の5秒で決まる」ということでした。

 これは採用する側の気持ちになってみれば分かることです。たとえば自分が従業員100名の会社の人事担当(面接官)だったとしましょう。その場合、新規採用の基準はどうなります?

 意欲や入社後の夢なんていうのは問題になりません。みんな熱心に勉強してきているはずですから、どれもこれも模範解答で出てくるでしょう。学業成績や知的な能力は、ほぼ似たようなものです。よほどとぼけた人でない限り、自分に見合った企業を選んで試験に来ていますからそんなに差はないはずです。多少レベルが低くたって、入社後の働きなんてそれとは別です。そうなると決め手はひとつしかありません。

「こいつと30年間、気持ちよく仕事をしていけるか?」
ということです。ある意味これ以上大切なことはないでしょう。

 面接官だっていつまでも人事担当をしているわけではありません。いつか違う部署で今目の前にいる若者を一緒に働くことになります。それを考えると、どんなすごい学歴があろうとどんな高い能力があろうと、あまり関係ないでしょう。むしろ大切なのはコイツと一緒にいて楽しいか、コイツと一緒で気持ちよく仕事ができるかということです。一度採用すれば辞めさせるのは容易ではありません。うっかりすると30年も一緒に過ごさなければならない人間が、「アイツじゃあなあ」と思われるような人ではかなわないのです。

 面接官たちは、実は何かを聞いているわけではないのです。最初にノックがあって受験者が入ってきた瞬間から、その人を見たことによって自分の体の中に起こる感覚に、じっと耳を澄ませているのです。「ああ、こいつはかなわん」とか「いい子だなこりゃ」とか、多くの人間とつき合っていると自然に身についてくるあの感覚です。これだと5秒で分かります。

 人は見かけが肝心だとか第一印象がすべてだとか言っているのではありません。人間がいつの間にか身につけてしまう「匂い」とか「オーラ」とかいった、説明もできなければ目にも見えない、しかも隠しても隠せない、取り繕うにもつくろえない、そういう何かが、就職試験では決定的だということです。

 なかなかいい話です。生活体験を大切にせず、学業成績ばかり気にする保護者がいたら、いつかこの話をしてやろうと、心に留めておくことにしました。