カイト・カフェ

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「かわいそうなアメリカ人」~英語が難しいのはアメリカ人も同じ(?)

 英語の「S」を「エス」と発音するのは「S」が単独で表記されるときだけです。「sports」の最初の「s」も最後の「s」も「エス」とは読みません。同じ「a」なのに「apple」の「a」と「April」の「a」はまったく違った発音です。私はこれで英語ができなくなりました。

「ea」というつづりは繰り返し出てくるものですが、どんな単語のどこにくるかで発音は何通りにもなります。ちょっと考えただけでもeagle、ear、heart、early、ready、tearは全部違います。
 私には、英語のできる人は真っ当ではないという思い込みがあります。

 さて、同じ「a」なのに発音が違う、「read」と書いてあっても「レアド」ではないという英語の困難は、日本人だけのものではありません。当の英米の子どもだってこれがたいへんで、だからアメリカには識字障害(ディスレクシア=読字障害・書字障害)が大量にいます(およそ15%)。トム・クルーズはその中でも最も有名な人ですが、『パイレーツ・オブ・カビリアン』のジョニー・デップを挟む両側の二人、オーランド・ブルームとキーラ・ナイトリーも自らがディスレクシアだと告白しています(中でもキーラとんでもない読書好きで、ほとんど常に他人が吹き込んだ書籍のテープを聴いているといいます)。

 考えてみればそれも当たり前で、そもそも英語の表記が26文字しかないことが問題なのです。

 日本の場合、五十音表に表される45文字以外に濁音や半濁音などを入れると80以上の表記があります。カタカナを入れると2倍の160あまり、それに漢字は常用漢字だけでも2000近くもあります。これだけの文字を駆使して頭の中を表現しているというのに、欧米人は同じことを26文字でやってのけないといけないのです。それが楽なはずがありません。日本の子どもは7歳で自分のしゃべる言葉を全て文字にできます。ひらがなを使えばいいだけですから。しかしアメリカの子どもは(そしてその他の外国の子どものほとんども)、そんなことは絶対にできないのです。

 もうひとつ欧米の子どもの学習を邪魔している要素があります。それは数詞です。私たちも13歳のころ苦労しましたが、「ワン」「ツー」・・・「ナイン」「テン」と行って、次が「テンワン」にならない不思議。「イレブン」「トゥウェルブ」とわけの分からないものが二つ続き、そのままわけの分からないものが続くと思ったら次が「サーティーン」「フォーティーン」。「13」以降は一の位を読んでから十の位を読むという約束事があるらしいのです。

「よし、これで英語の数詞のルールが分かった」と思って20まで数えると次の「21」が「トゥエンティ・ワン」。以後十の位を先に読むルールが99まで続きます。せっかく理解した「一の位が先」ルールがご破算で、つまり十の位だけが異常なのです。

 こうした厄介さに、アメリカの子どもは7歳のときから苦労しなくてはなりません。また、数は数えられればいいというものではありませんから、たし算のときもひき算のときもかけ算になってもわり算になっても、いちいち引っかかってくるのです。

 この点を抜き出しただけでも、日本の子どもはほんとうに幸せです。日本語の表記で厄介なのは「を」と「は」と「へ」だけです。数なんて「兆」まで数えたってルールは単純です。

「なんでこんなに漢字の勉強しなくちゃいけないんだよ~!!」
とわめく子どもがいるとき、私はいつもこの話をしてあげます。
「ね、アメリカの子どもの苦労ってこんなものじゃあないのだよ。日本人に生まれてよかったね。だって漢字の勉強できるのだもの。さあ、もっとうれしそうな顔をして漢字の書き取りやってごらん」