修二会

 今日、3月12日は奈良の東大寺二月堂のお水取りの日です。正しくは修二会(しゅにえ)といい3月1日から14日にかけて11人の僧によって行われる法要行事です。

 仏様に捧げる一年間の水を取るのがメインのイベントなのですが、私たちには二月堂の舞台に11本の松明が並び、激しく振られる火から落ちる火の粉を浴びると、一年間無病息災で暮らせることができるという言い伝えで知られています。その様子は、今夜のニュースできっとやることでしょう。

 12日の夜に行われる行事はどれも興味深いのですが、中に過去帳読誦というのがあり、聖武天皇以来の東大寺に縁の深い人々の名が、延々と読みあげられるのです。

 今から800年ほど前の修二会の夜、過去帳読誦が源頼朝から10人あまり進んだとき、読誦僧がふと見上げると、薄暗い荒格子の内側に青い服を着た女性が浮かび上がり、驚いていると「なぜ私の名を読み落とすのですか」と責めます。そこで思わず「青衣の女人(しょうえのにょにん)」と呟いたところ、それが記録に残され、今日に至っているといわれています。

過去帳は5年ごとに書き改められますが現在も読誦が始まってから40分あまりたったころ、頼朝から18人目に「青衣の女人」の名が記されており、しかし実在の人物でないので声を潜めて読み上げられるといいます。

 さて、20数年前の3月11日、私は「明日はお水取りです」というテレビニュースを見て突然見に行くことを決め、一人で奈良に向かったことがあります。案外なことに、宿を取るのは難しいことではありませんでした。

ただしむちゃくちゃに底冷えのする夜で、12日の夜中過ぎ(13日未明)まで頑張ったのですがついに我慢できず、お水取りの行事本体を見ることを諦めて二月堂をあとにしました。その帰り道の奈良公園で、私は青いドレスの女性とすれ違ったのです。

 単なる偶然ですが、お水取りの夜に「青衣の女人」と会ったと言えば自慢になるな、とウキウキしながら帰りました。ところがしばらくして急に思い出したのですが、その女性の青いドレスが半袖だったのです。耐え難いほど寒い夜のことです。