カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「西鉄バスジャックの思い出」~悪くなっていく子どもは、誰かが止めてやらなければならない

 資料を整理していたら、次のような文が出てきました。これは西鉄バスジャック事件(2000年)の際、瀕死の状態で運び出された山口由美子さんという女性の回想です。

『こいつしぶといな、殺してやろか』
 ほんと、出る寸前に言ったんですよ。そうしたら横にいた女性の方が『もう、いいじゃない』って、大阪弁で『もう、よかんやんね』って言ったんですよね。
 そしたら少年が、
『ぼくそんなこと、そんなふうに言ってくれる人、好き』
って言ったんですよ。
 ということは、何かいけないことをやっているということはちゃんと知ってるんですよ。でもそれを諌める人がいなかった。だからその諌めてくれたことで、嬉しかったんですよね。

 この時少年を諌めた池田美穂子さんという女性は、その後、犯人の指示をうけて人質の少女の世話をさせられるなど、何かと働かされた人です。それだけ犯人から信頼されたということです。

 この17歳の少年は、引きこもりの家庭内暴力で、父親は深夜の中国自動車道を何度も自家用車で往復させられるなど、両親ともに少年の言いなりの状態でした。少年自身が作り上げた家族関係ですが、そんなもの少年はまったく望んでいなかったのです。

 本当に欲しかったのは、悪くなって行く自分を、身体を貼って本気で止めてくれる誰かです。
 少年は自由な世界での最後の瞬間に、“その人”に出会ったのかも知れません。

 中学校でチンピラ少年に最も人気のある先生は、その学校で一番厳しいといわれる先生です。これは間違いありません。

 誰だって子どもは好んで悪くなっているのではないのです。
 子どものことで信じられる唯一のことは、
『子どもは誰でも良くなりたいと思っている。すごいヤツだ、すばらしいヤツだと言われたいと思っている』
ということです。

 悪くなっていく子どもは、誰かが止めてやらなければなりません。自分では止められないのですから、誰かがやらなくてはならないのです。