「ひな」

 雛人形や雛祭りの華やかさから、若い頃「鄙(ひな)」というのは都会のことだと思い込んでいた時期があります。したがって「鄙にも稀な美人」は「都会にもめったにいないような美人」ということで、筋が通っていたのです。

 ところが、「鄙」が都会だとすると「鄙びた温泉」といった言葉が分からなくなります。「都会じみた温泉」では風情も何もあったものではありません。ここはどうしても「田舎じみた」「地味で風情のある」といった感じですから「鄙」は都会ではありえないのです。そこで改めて辞書で調べるとただ一言。「鄙=田舎のこと」とあるではありませんか。

 そうなると今度は「鄙にも稀な美人」の方が分からなくなります。「田舎にも稀な美人」では意味が通りません(「田舎にも、稀な美人がいたよ」の略か?)。ここはやはり「鄙には稀な美人」でなければならないはずです。

 ちなみにグーグルで検索してみると「鄙には稀な」が34400件、「鄙にも稀な」は31100件で、「には」の方がやや優勢のようです。しかし正反対の言葉が拮抗しているというのも、不思議といえば不思議ですね。

 ところで「鄙」について調べようと思ったのは、だいぶ昔に見たテレビの中で、一人の老人が「いいねえ、こういう『しなびた温泉』もォ」というのを耳にしたからです。

「しなびた温泉」たしかに感じは分かりますが、温泉なのに潤いというものがまったくありません。