絵を描かせる�@


 芸術の秋、各クラスから画板を持って屋外に出てくる児童の姿が見られるようになっています。

 絵は、1・2年生くらいまではたいていの子が好んで取り組みますが、いつの間にか苦手な子が出てきて、やがて描くのが嫌いになってしまったりします。しかし、どうしてあんなに差がついてしまうのでしょう?

 絵の苦手な子を見ているといくつかの類型があって、そのひとつは明らかに観察不足です。ひどいときは対象をまったく見ず、概念だけで描いていきますから、肩より広い大きな顔といったものも平気で描いたりします。

 しかし1・2年生ならともかく、3年生くらいになったらモデルを見て、しっかりと描く練習をさせなくてはなりません。私は一流の先生のそうした指導を、10時間近く連続で見たことがありますがそれは見事なものでした。

 それによるとまず、児童を1対1に組み合わせ時間を決めて、交互にモデルをする約束をさせます。そうしておいて片方の目の線から、いちいち順番に一緒に描いて行くのです(先生も一緒に描きます)。

「まず、右の目の上の線から描くよ。鼻の近くの方から反対の方へ、強い線ですうっと描いてごらん。よく見ると、上の線は二本あったりするよね、そこのところをよく見て描くんだ」と言ったふうです。

「下の線は上の線より薄くて平らだよね。今度はそこを書くよ」

 いちいち丁寧にやらせるのは、児童の観察力を高めるためです。

 

 このときもうひとつ非常に大切なことがあります。それは決して画用紙を見ないということです。児童が下を見そうになったら、

「ダメ、ダメ! 真っ白い紙を見ていたって、何も見えないでしょ」

といったことを言います。その上で、

「でも、まったく見ないと描けないから、ちょっとはカンニングしていいんだよ」とも付け加えます。

 描いて時間の、およそ9割以上をモデルを見ることに費やし、しわの一本一本も順番に丁寧に描かせていきます。

 実は、これを真似て、私は素晴らしい作品をどっと生み出したことがあります。このときはモデルの素晴らしさも大きな働きをしました。そのモデルとは、私です。

 なにしろ若くない男の担任ですから、美しく描こう、きれいに描こうというストレスからまったく自由でいられます。おまけに皺が山ほどありますから、のっぺりとゆで卵のように美しい顔に比べて、描き込むのがとても楽なのです。

 今でも(しわの増えた分、今はさらに)、私の顔を描かせることには、かなりの自信があります。