路上生活者にもなれない


 私が会った最初の不登校の子は小学校3年生の女の子でした。1978年の春のことだったと思います。  幼稚園の途中から登園しなくなり、学校も数日行っただけで、あとは毎日、公園で年下の子と遊んでいると、そんな話だったように記憶しています。  勉強をまったくしていないので心配になった保護者が、学習塾ならば行くのではないかと考えて、私の勤めていた塾によこしたのですが、ごく普通の、可愛い女の子です。学力は最低でしたが楽しく会話できるので、これは大したことないだろうとタカをくくって勉強し始めたのですが、程なく塾にも来なくなってしまいました。  78年の3年生ですから70年生まれくらいでしょうか? 単純に計算すれば、現在37歳になっているはずです。  登校拒否という名で呼ばれたこの子たちの内の何%かが、そのまま「引きこもり」となり、40歳を越えてそろそろ社会に出てきます。社会復帰を果たしてのことではありません。親が死んで生活の基盤を失い、家の中にいられなくなるのです。  彼らには路上生活者としての生き方しか残されていませんが、この「路上生活者」が、なかなか楽な人生ではないのです。  路上生活者には路上生活者のネットワークがあります。  どこに行けば安全でまだ温かい廃棄食品を手に入れられるか、  小遣い稼ぎはどうすればよいのか。  価値のありそうな拾い物を金に換えるにはどうしたらよいのか、  野犬や非行少年に襲われたらどうすればよいのか。  そういったことを学ぶためにも、一定の人間関係を運営する術を知らなければなりません。  また、公園でねぐらを確保するためには公園内の序列に敏感でなければなりませんし、さまざまな災厄から守ってもらうためにはそれなりのワイロやゴマスリも必要です。いろいろ場面で我慢もしなくてはなりません。  そしてそうしたことはすべて、不登校や引きこもりの子にとって、もっとも苦手とすることなのです。  路上生活者にもなれない!  不登校や引きこもりの子の最悪のシナリオがこれです。  どんなに時間やエネルギーがかかろうとも、どんな手段を使ってでも、決して子どもを家に引きこもらせない、私は繰り返しそう決心します。