カイト・カフェ

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「英語という困難」~日本人が数百種類の文字を使って表す概念を、たった26文字で表現する困難

 今日はアイデアが浮かばないので、前々から紹介しようと思っていたある本の一部を紹介します。もしかしたら、もうお話したことかもしれませんが。
アメリカで行われた疫学調査では、小学校二、三年生の男子の8.8パーセント、女子の6.5パーセントに読字障害があるという。たしかに、日本でも漢字の書き取りで苦労する子どもがいるが、これほど多くはない。どうしてこんなに読字障害の子どもがいるのかといえば、アルファベットを使っているからだといわれているのだ。こうした読字障害の子どもたちは、英語をしゃべったり、聞き取りをしたりすることに問題はない。しゃべり言葉の発達はふつうだったのだ。けれども、アルファベットで記された単語や文章を読む段になると、急にできなくなってしまうのだ。

 よく調べるとこうした子どもたちは、一つ一つのアルファベットは読める。だから「read」という単語を見て、「アール」「イー」「エイ」「ディー」と読みあげることはできるのだ。また「read」という単語を、字を見ないで会話のなかで使うことにはまったく支障がない。

 こうした子どもたちにできないことは「read」という単語が、読むを意味する「リード」という発音になることがわからないのだ。日本語にたとえることは正確にはできないのだが、無理矢理に比較をすると、「概ね」「予め」を「おおむね」「あらかじめ」と読むことがわからないようなものなのだ。

(中略)

 英語ではアルファベットを二十六文字覚えればすむので、二通りのカナと数千の漢字を覚えなくてはならない日本語は、英語より学ぶのがたいへんだと思っている読者の方が多いのではないだろうか。ところが英語を覚えることもたいへんなのだ。

 日本語のカナは、ごくわずかな例外を除いて一つの字に一つの読み方しかない。わずかな例外は、助詞として使う「は」を「わ」、「へ」を「え」と発音することくらいだ。たしかに漢字はむずかしい。何通りも読み方がある。しかし、音読しなくてよいのならば、発音はわからなくても意味を理解することはできる。
 ところが英語は、アルファベットの組み合わせで、発音をあらわす。日本語の母音は「アイウエオ」 の五つしかないが、英語には母音が連なった二重母音まで入れると三十四種類もの母音がある。そしてその母音をあらわすのに、たった七つのアルファベット(a、i、u、e、o、y、w)しか使えない。カナには一通りの読み方しかないし、漢字もせいぜい二~三通りだ。数は多いといっても、その読み方は固定されている。ところが英語では同じ文字や文字の組み合わせでも異なった発音になる。
 たいていの子どもは英語を読むときに、その音を頭のなかで響かせて意味を取る。I read a book.は「アイ・リード・ア・ブツク」という音として頭のなかで音読されて、私は本を読むという意味がわかるのだ。ところが多くの読字障害の子どもは「ea」という母音をどう響かせるかわからないのである。なぜなら、どんな単語のどこにくるかで「ea」の発音は何通りにもなるのである。英語を母国語としない私でも、「ea」が異なった発音となる単語をいくつも思い出すことができる。たとえばeagle、ear、heart、early、ready、tearはみな違った発音になる。』


 さっぱり勉強しない、意欲もない、そういう日本の子どもが、世界最高に近い学力を誇れる秘密はこのあたりにあるのかもしれません。